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最高裁判所第三小法廷 昭和34年(オ)82号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人木村順次郎の上告理由第一点について。

原判決は、本件建物買受けの目的(縁由)が買主側の防空上の必要にあつたということだけで本件建物譲渡代金請求権が戦時補償請求権に該当するとは判示していないから、所論は原判決を正解せざるにいで、前提を欠き採用できない。

同第二点、第三点について。

原判決が所論認定事実関係の下で本件建物譲渡代金請求権が戦時補償特別措置法施行規則六条二号所定の請求権に該当せず、同法一条一項但書にいう、「政府の通常の業務に関して生じた請求権」にあたらない旨判示し、本件請求権が同法一条一項本文所定の戦時補償請求権に該当し同法一七条の適用上消滅に帰したと判断したことは、正当として首肯できる。所論は、独自の見解に基づき、原審の法令解釈適用の誤りをいうもので、採用できない。

同第四点について。

所論は、戦時補償請求権の消滅を法定する戦時補償特別措置法一七条が日本国憲法(以下新憲法と略称する)二九条に違反し無効であるという。

しかし、本件譲渡代金請求権は、原判示のごとく所定の申告期限(昭和二一年一二月一四日)までに所定の申告書が提出されなかつたため、前示法条の適用上当然に、右申告期限の経過した時、すなわち新憲法施行(昭和二二年五月三日)前にすべて消滅に帰したものというべきである。

このように、一定の法律上の効果が旧憲法に基づく法律の適用上当然に旧憲法施行当時においてすでに消滅し、新憲法施行以降にわたつてまでその効果が存続せしめられない場合にあつては、右消滅を規定する法律自体が新憲法に違背するか否かを判断することは無意義不必要なものというべく、所論違憲の主張は取り上げる余地がない。(昭和二三年(れ)第四二四号同年一二月二七日大法廷判決、刑集二巻一四号一九四〇頁、昭和二五年(れ)第六二三号同年七月六日第一小法廷判決、刑集四巻七号一一八七頁、昭和二四年新(つ)第二〇号同二八年八月二六日第一小法廷決定、裁判集刑事八六号二八九頁参照)。

その余の論旨は、原判決の認定、判示を正解せず、これと異る認定判示があつたものとして原判決を非難するものであるから、前提を欠き採ることができない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 河村又介 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊)

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